『なぞらえ屋』
〜奇巡四谷怪談〜
Introduction〜御挨拶〜
「ら・むうんさん、怪談やってよ」
四谷於岩稲荷田宮神社の禰宜でらっしゃる栗岩さんが、にこやかな笑顔でこうおっしゃったのは、丁度二年前のお正月でした。
昔から「怪談」の中に込められていた大切なメッセージが、それを子供たちに語り継ぐおじいちゃんおばあちゃんの存在の隔絶と共に、きちんとその役割を果たさなくなってしまっている、というのが栗岩さんの憂慮の種であると。
悪いことをすると、お化けが来るよ。
いけないことをすると、祟りがあるんだよ。
昔、子供だった自分たちは、恐ろしい絵やお話と一緒にそう教えられたものです。
怖くて眠れなかった記憶と一緒に、その「怖い存在」に対する畏怖や畏敬を無意識のうちに学び、自然に自分を律することが、ごく当たり前のことでした。
確かに、今は「怖いもの」がきちんと機能していない世の中になってしまった気がします。
いつのまにか、子供たちにとって、お化けや幽霊より、人間の方が怖いものになっていました。
でもその恐怖は、畏怖も畏敬も伴わない不条理な歪です。
だから、普段、漫画や小説を生業にしている自分たちに、少し大きくなった子供たちにも届けられる方法で、正しく「怪談」をやって欲しい、と。
「怪談」界のスーパースターであると同時に、芸事を極める各方面の方々に、篤く信仰されている『お岩様』からのお話です。
もの凄いプレッシャーと共に「わかりました、お引き受けします」とお返事して早二年。
いかんいかん、いつかできればいいなでは、そのいつかは永遠に来ないぞと、一同一念発起し、この度の公演とあいなりました。
まだまだ至らぬところばかりの朧月ではございますが、ツキ満ちて観月できますよう、誠心誠意、務めさせていただきます。
どうぞ、ら・むうんが紡ぐイマドキの『怪談』をごゆっくりお楽しみください。
平成二十一年 六月吉日
La・Moon代表 有里紅良